2011年4月20日水曜日

大森美容室 このままでいいのか:介護/下 増えるショートステイ

◇特養の“待機場所”に
 「ショートステイ施設は、毎月のようにあちこちにできている」。秋田市内のある社会福祉法人職員はこう話す。
 同市介護・高齢福祉課によると、介護保険制度が始まった00年は10事業所で定員は184人だったが、10年4月現在では41事業所の定員1102人と6倍に。県長寿社会課によると同期間で訪問介護事業者は36から74、特別養護老人ホーム(特養)は13カ所854人から16カ所1004人に増えるにとどまった。
   ■    ■ 
 介護保険で「施設サービス」に位置づけられる特養は、設置主体が行政機関や社会福祉法人、医療法人に限られる。市町村の事業計画に基づいて県が事業者を指定し、施設整備費用も支出する仕組み。これに対しショートステイは「居宅サービス」に含まれ、民間企業の参入が可能だ。事業者は、指定基準さえ満たしていれば県の指定を受けられる。
 普段自宅で介護を受ける高齢者が、家族の休息などのため一時的に入所、宿泊するのが本来のショートステイの役割。だが実際には、「ショート」にもかかわらず、1~2年と長期にわたって入所する高齢者も少なくない。
   ■    ■
 厚生労働省は通達で利用日数について、要介護認定期間の「おおむね半数を超えない」と定めているが、必要に応じて超過も認めている。
 市介護・高齢福祉課によると、認定期間を超えた利用の届け出をするのはケアマネジャー。住宅や家族の事情などを考慮しケース・バイ・ケースで決めており「行政として是非を判断できない」としている。
 ある民間企業のショートステイ事業者は「利用者の7割が長期入所で、その多くは1人暮らし。核家族化や子供夫婦の共働きなどで在宅介護ができず、特養の入所待ちの人のための、いわば待機場所になっている」と語る。
 ショートステイやデイサービスなど幅広く手がける市内の社会福祉法人の生活相談員は、さらに厳しい現実を打ち明けた。
 「長期入所者が特養入所を申し込んでいても、胃ろう(口から食べられない患者に、腹部の表面から胃につながる管を通して栄養を補給する)すらできないほど状態が悪かったり、健康診断でがんが見つかると入所を断られ、そのまま残ることもある。病院に入院すらできないケースもある」
   ■    ■
 県長寿社会課によると、特養とショートステイでは建物の基準に差はほぼなく、1人あたりの面積も大差ない。特養は看護師の配置が義務でショートステイは義務ではないが「実際には看護師がいないケースはないと思う」(同課の担当者)としている。
 民間企業で看護師を常駐させているショートステイ事業者は「ユニット型(10人以下を1単位として介護し、個室や2人部屋を設けてプライバシーと集団生活を両立する方式)なので入浴も1人ずつでき、特養よりも介護が行き届いている」と強調する。
 ただあくまでも「短期入所」が前提。利用者が病院に長期間入院した場合、帰る部屋が確保される特養と違って他の利用者で埋まってしまう可能性がある。
 さらに、社会福祉法人の生活相談員は「うちのショートステイ施設は夜間は看護師が不在。特養のようなかかりつけ医もおらず、人員でも設備でも医療面では弱い」と認めた。
   ■    ■
 ショートステイ施設の急増は、特養の介護職員確保にも影響を与えている。
 秋田市近郊で特養を運営する社会福祉法人の関係者は「利用者にとって選択肢が増えたのはよいこと」としながらも「秋田市での介護職の応募が少なく、人員が補充できない。民間の事業者に人を取られている印象」と語る。別の特養園長も「職員は経験を積み資格を取っても、結婚したり子供ができると待遇面で将来が不安になり『いいところへ移りたい』と思うようになる。ショートステイやデイサービスなど他の事業者からの引き抜きもある」と明かす。
 一方で、ショートステイ施設を運営する民間事業者は施設入所を希望する高齢者は今後も増え続けると見ている。「行政は財政に余裕がなく、特養をこれ以上増やせない。制度が実態に追い付いていない。これからはショートでも看取(みと)りをするようになるのではないか」【岡田悟】